【建設業の資金調達】ファクタリングと手形割引、どちらを選ぶ?資金繰りの改善に役立つ迅速な資金調達は?

公開日:2025年05月30日    更新日:2025年06月12日

ファクタリングと手形割引、どちらを選ぶ?資金繰りの改善に役立つ迅速な資金調達は資金不足を解消するための資金調達手段として「ファクタリング」と「手形割引」はどちらも有効な方法です。しかし、その仕組みやメリット・デメリットには大きな違いがあります。ファクタリングは売掛金を、手形割引は受取手形を現金化する方法で、資金化のスピードやコスト、リスク負担の違いが選択のポイントとなります。

この記事では、それぞれの特徴や注意点をわかりやすく解説し、最適な資金調達方法選びをサポートします。

目次

ファクタリングと手形割引の基本的な違い

ファクタリングと手形割引の基本的な違いファクタリングと手形割引の基本的な違いは、現金化する対象にあります。ファクタリングは売掛金を現金化するのに対し、手形割引は受取手形を現金化する方法です。つまり、ファクタリングは帳簿上の債権、手形割引は実際の有価証券を資金化する点が大きな違いです。

では、その根本的な違いを、もう少し詳しく説明いたしましょう。

違い①:現金化する対象

ファクタリングと手形割引の最も大きな違いは、現金化する対象が異なることです。

●ファクタリング
企業が取引先に商品やサービスを提供した後に発生する「売掛金」(請求書や納品書などで証明される未回収の代金)をファクタリング会社に売却し、支払期日前に現金化する方法です。

●手形割引
取引先から受け取った「約束手形」や「為替手形」といった有価証券を金融機関などに持ち込み、支払期日前に現金化する方法です。つまり、ファクタリングは請求書ベースの債権(売掛金)が対象であるのに対し、手形割引は紙や電子で発行された手形そのものが現金化の対象となります。

違い②:取引形態

ファクタリングと手形割引は現金化する対象が異なるため、取引形態も大きく違います。

●ファクタリング
企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却し、現金化する取引です。取引形態には「2社間ファクタリング」と「3社間ファクタリング」があり、2社間は利用者とファクタリング会社だけで契約が完結し、取引先に知られずに資金化できるのが特徴です。一方、3社間は利用者・ファクタリング会社・売掛先の3者で契約し、売掛先がファクタリング会社に直接支払うため、手数料が低くなる傾向があります。

●手形割引
企業が受け取った約束手形や為替手形を金融機関などに持ち込み、支払期日前に現金化する取引です。割引を受ける際は、手形を金融機関に譲渡し、手数料(割引料)を差し引いた金額を受け取ります。

違い③:決算書への影響

帳簿掲載上の違いを一言で言うと、ファクタリングは「売掛金の減少と現金の増加として処理され、負債計上が不要」なのに対し、手形割引は「現金化と同時に借入金として負債も計上される」点です。

●ファクタリング
売掛金を現金化することで貸借対照表の「売掛金」が減り「現金」が増えるため、資産のオフバランス化が実現し、自己資本比率や現金比率などの財務指標が改善されます。また、負債を増やさずに資金調達できるため、決算書の見栄えがよくなり、金融機関や取引先からの評価向上にもつながります。

●手形割引
受取手形を金融機関に譲渡して現金化しますが、割引手形は「割引手形」や「手形借入金」として負債に計上される場合が多く、負債が増加し財務体質が悪化して見えることがあります。そのため、決算書上ではファクタリングに比べて見栄えが悪くなる傾向があります。

違い④:償還請求権

ファクタリングと手形割引の償還請求権の違いは、「売掛先が支払い不能になった場合のリスク負担」にあります。

●ファクタリング
一般的に「償還請求権なし(ノンリコース)」の契約が多く、万が一、売掛先が倒産して売掛金が回収できなくなっても、利用者(債権を売却した側)はファクタリング会社から返済を求められることはありません。つまり、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社が負担することになります。

●手形割引
償還請求権あり(リコース)」が基本です。手形が不渡りとなった場合、手形割引を利用した企業は金融機関などに対して手形金額全額や利息分の支払いが請求されます。つまり、売掛先の倒産リスクを利用者自身が負うことになります。

違い⑤:手数料・金利

ファクタリングには手数料がかかり、手形割引には割引料(金利)がかかります。

●ファクタリング
ファクタリングの手数料は、2者間で8%〜18%、3者間で2%〜9%が一般的な相場です。手数料は一律で、現金化までの期間に関係なく一定です。

●手形割引
手形割引の割引料(金利)は、銀行や信用金庫で1%〜5%、手形割引業者では2.5%〜18%程度が相場です。割引料は手形の支払期日までの日数によって変動し、期間が長いほど割引料も高くなります。

手形割引は貸金業法により金利の上限(年利20%)が定められていますが、ファクタリングは手数料の上限規制がありません。このため、一般的には、ファクタリングの方が手数料が高く、手形割引の方が割安です。

違い⑥:審査

ファクタリングと手形割引の審査には大きな違いがあります。

●ファクタリング
主に「売掛先企業の信用力」が重視され、利用企業自身が赤字や債務超過でも審査に通るケースが多くなっています。そのため、審査は比較的緩やかで、現金化までの期間も短く済みます。

●手形割引
「手形振出人(売掛先)」だけでなく、「利用企業自身」の信用力や財務状況も厳しく審査されます。赤字決算や債務超過の場合は審査に落ちることが多く、現金化までに時間がかかる傾向があります。

ファクタリングと手形割引のメリット・デメリット

ファクタリングと手形割引のメリット・デメリットここまでファクタリングと手形割引の違いについて説明してきました。

どちらも資金調達手段として有効な方法ですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。また、便利な点もありますが、利用するにあたって注意しなければいけない点があります。この章では、リスクについても詳しくご説明します。

ファクタリングと手形割引を一覧表で比較

ファクタリングと手形割引の特徴の違いを、ひと目でわかる一覧表にしました。資金調達手段を選択する際の比較検討にお役立てください。

特徴 ファクタリング 手形割引
対象 売掛債権(未受領の売掛金) 受取手形(約束手形)
仕組み 債権譲渡 手形の買い取り
現金化スピード 最短即日~1週間程度 1週間程度~
取引先への通知 不要な場合が多い 不要な場合が多い
債権譲渡登記 不要な場合が多い 不要な場合が多い
手数料・割引料 1%~20%程度 年利1%~5%程度(銀行)
審査 売掛先の信用力 振出人の信用力、返済能力

ファクタリングと手形割引のリスクと注意点

ファクタリングと手形割引には、それぞれ特有のリスクや注意点があります。利用前に両者のデメリットや注意点を把握し、資金調達の安全性やコスト面を慎重に比較検討することが重要です。

ファクタリングと手形割引の共通のリスクと注意点

  • 利用する際には手数料や割引料が発生する
  • 売掛金の額以内でないと資金調達できない
  • 契約書や明細書の控えは必ず保管

ファクタリングのリスクと注意点

  • 他の資金調達手段に比べて手数料が高い
  • 償還請求権がある場合、売掛先の不渡り時に請求されるリスクがある(償還請求権がない場合利用できる金額が限定されることも)
  • 3者間ファクタリングでは、売掛先の承諾が必要となる場合がある
  • 債権譲渡登記が必要となる場合があり、手続きが煩雑になる
  • 業者選びに注意が必要

手形割引のリスクと注意点

  • 手形が不渡りになった場合、買い戻しの義務が発生し、資金繰りがむしろ悪化する可能性も
  • 手形を現金化する際に、割引手数料が差し引かれる
  • 手形全体の金額を現金化する必要があるため、資金調達の金額が手形の額面に縛られる場合も
  • 手形の振出人(手形を発行した側)や裏書人に信用不安がある場合や手形の金額が大きすぎる場合など、利用拒否される可能性もある

手形廃止の動向と現状

約束手形や小切手の廃止は、政府の方針により2026年度末(2027年3月末)を目標に進められています。すでに2024年11月からは下請法の運用見直しにより、手形による支払いは原則60日以内とされ、長期の手形利用が実質的に困難となっています。

この流れを受け、全国銀行協会も2027年4月に手形・小切手の決済システム運用を終了する方針を決定し、金融機関も紙の手形・小切手の取り扱いを段階的に中止する動きが広がっています。

手形に代わる決済手段「でんさい(電子記録債権)」

手形に代わる決済手段として注目されているのが「でんさい(電子記録債権)」です。

でんさいは、全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が運営する電子記録債権で、従来の手形と同様に債権の発生や譲渡、決済がオンラインで完結します。支払期日になると自動的に支払企業の口座から受取企業の口座へ資金が送金され、印紙税が不要、分割譲渡が可能、紙の搬送コストがかからないなどのメリットがあります。

手形廃止後は「でんさい」など電子化された決済手段への移行が急速に進んでいくことでしょう。

こんなケースはファクタリングがおすすめ

こんなケースはファクタリングがおすすめ手形を保有していない場合はもちろん、資金調達を借入金として帳簿に計上したくない場合、取引先に知られずに資金調達したい場合ファクタリングがおすすめです。

また、資金調達手段としてファクタリングが推奨される具体的なケースについてご説明しましょう。

資金を急遽必要とする場合

急いで現金化を必要とする場合、最短で即日や数時間以内に資金調達が可能なファクタリングが資金調達手段としておすすめです。具体例としては以下のようなケースになります。

  • 建設業で大型案件を受注し、資材調達や外注費などの前払い資金が急遽必要になった場合(銀行融資の審査に時間がかかる、または通らないケース)。
  • IT業界やシステム開発会社で、プロジェクト進行中の人件費や外注費の支払いが発生し、クライアントからの入金までタイムラグがある場合。
  • スタートアップやベンチャー企業が、急な広告費やオフィス拡張費などの先行投資を即時に調達したい場合(売掛金はあるが、銀行融資が難しいケース)。
  • 製造業で急な受注増加により、原材料の仕入れ資金が至急必要になった場合。
  • 広告代理店などでクライアントからの入金前に、広告枠確保やメディアへの支払いが先行して発生する場合。
  • 季節変動や突発的なトラブル対応で、短期間にまとまった運転資金が必要となったアパレル業など。

審査に自信がない場合

銀行融資や手形割引の審査に通る自信がない場合は、資金調達の選択肢としてファクタリングがおすすめです。具体例としては以下のようなケースになります。

  • 自社の業績が赤字、債務超過、または税金・社会保険料の滞納があり、銀行融資や手形割引の審査に通る見込みが低い場合。
  • 創業間もない、決算書の実績が乏しいなど、信用力が十分でない場合。
  • 信用情報に傷があり、追加の借入や金融機関の審査で不利になる恐れがある場合。
  • 担保や保証人を用意できず、通常の融資が難しい場合。
  • 売掛先企業の信用力が高く、自社の財務状況にかかわらず売掛債権を活用できる場合。

不渡りリスクを避けたい場合

手形が不渡りになると、現金を回収できないばかりか、不良債権化してしまいます。半年以内に2回不渡りを出すと、振出人側は銀行取引停止処分となり、事実上の倒産に至る可能性があります。

以下のケースのように、手形の不渡りリスクが懸念される場合は、資金調達手段としてファクタリングの選択をおすすめします。

  • 振出人(手形を発行した側)の資金不足や、当座預金口座の残高不足がある場合。
  • 他の取引先からの入金が遅れがちで、振出人が支払い期日に資金を用意できない場合。
  • 振出人の経営状態が悪化している、または倒産リスクが高まっている場合。
  • 手形の記載ミスや、偽造・盗難・詐欺などによる不渡り(0号・2号不渡り)への不信がある場合。

「下請けいじめ」とさえ言われる手形取引。手形は支払日まで現金化できず、下請け企業は資金繰りのために手形割引を利用せざるを得ない場合も多く、その際の割引料や不渡りリスクも下請け側が負担することになるからです。

まとめ:ファクタリングと手形割引、検討時のチェックポイント

ファクタリングにも、手形割引にも、それぞれメリット・デメリットがあります。資金調達手段としてファクタリングにするか、手形割引にするか、迷う時はそれぞれの特徴を踏まえて、しっかり比較検討しましょう。

自社の状況を踏まえて、以下の点をチェックすることをおすすめします。

  • 現金化したい債権の種類
    売掛金がある場合はファクタリング、受取手形がある場合は手形割引が選択肢となります。
  • 資金調達のスピード類
    できるだけ早く現金化したい場合は、最短即日対応が可能なファクタリングが有利です。手形割引は現金化までに数日〜1週間程度かかる場合があります。
  • 手数料・コスト
    手形割引は一般的にファクタリングより手数料が低く、割引料も支払期日までの日数で変動します。コストを重視する場合は、具体的な手数料・割引料を比較しましょう。
  • 審査基準
    ファクタリングは売掛先(取引先)の信用力が重視されるため、自社の業績や信用に自信がない場合でも利用しやすいのがメリットです。一方、手形割引は利用者自身や手形振出人の信用力が重視されます。
  • 不渡り・貸倒れリスクの負担
    手形割引は不渡り時に自社が弁済義務を負うため、リスクを取りたくない場合はノンリコース型のファクタリングを選ぶとリスク回避が可能です。
  • 売掛先や取引先への通知・承諾の要否
    売掛先に知られたくない場合は、2者間ファクタリングや手形割引を選ぶとよいでしょう。
  • 帳簿処理・負債計上
    ファクタリングは売掛金の減少として処理され、負債計上が不要ですが、手形割引は借入金として負債計上されます。バランスシートへの影響も確認しましょう。
  • 法規制・契約の透明性
    手形割引は貸金業法の適用を受けるため金利上限がありますが、ファクタリングは適用外で手数料上限がありません。契約内容の透明性や安全性も確認が必要です。

これらのポイントを自社の資金繰り状況、信用力、リスク許容度、コスト感覚などと照らし合わせて選択することが重要です。